少量土壌培地耕 半促成キュウリ
1. 品種例 穂木:アンコール8、アンコール10、
シャープ1、 シャープ 301
台木:ひかりパワー、ゆうゆう一輝
2. 目標収量
1株当たり80本、可販収量 12,000kg/1,000u
3. 栽培のポイント
土耕栽培と比べて、空気中の湿度が低くなりやすいことに注意する。摘心後に、急速に側枝の発生が劣ることがあるので、強い整枝をしない。
4. 技術内容
(1) 育苗
ポット苗育苗を基本とする。面積が多い場合や省力化を図るときはセル成型苗の利用もできる。
@ 播種用土
基本的に市販の培土を用いる。自作する場合は、病害虫の心配がなく、水管理のしやすい培土(川砂、ピートモス、バーミキュライト混合)とし、肥料は入れずに液 肥等で対応する。
A たねまき
地温が十分確保できることを確認した後に、播種を行う。育苗箱は、底面を水平に設置し、生育にむらが生じないようにする。条間隔は、穂木で7cm、台木で9cm程度とする。7〜8mm程度の深さの播種溝を作る。
穂木は 2.0cm、 台木は2.5cm間隔に播種する。
接ぎ木の適期をそろえるため、穂木の2〜4日後に台木を播種する。発芽促進と生育の均一化を図るため、数日間は25〜27℃に高温管理する。
種子は穂木、台木ともに1,800粒/1000m2用意する。
B 鉢土
用土は、病虫害の心配のない土壌を用いる。土壌の作成は、保水性、排水性が良く、肥沃な土壌を用いる。孔隙率は70%位が良い。
化成肥料は多すぎると濃度障害を起こすので、ひかえめにして液体肥料で追肥を行うか、IB化成などで緩やかに効かす等を考慮する。
C 接ぎ木
少量土壌培地耕では培地の消毒が容易で、自根栽培も可能であるが、ブルームレス化および樹勢の維持のために接木が必要である。
交互誘引を行うため株元が地際と接しやすいので、自根が生じないようやや高めの位置で接ぎ木を行う。
通常は呼び接ぎを行う。接ぎ木はハウス内で行い、室温を20〜25℃にする。穂木の胚軸の切断をしやすくするように、穂木と台木を2cm程度離して植える。
(2) 本ぽ準備
@ 栽培床(培地)の準備
培地は野菜が作付けできる土壌であれば、種類は問わない。しかし、排水を良くするため、細かすぎない方が 良い。新たに使用する土壌はあらかじめ消毒しておく。 培地が乾燥しすぎているときは定植2〜3日前からかん水し、適湿にする。2作目以降、培地を耕起する必要はないが、耕起する場合、砕土しすぎない方が良い。
A 栽植密度
株間は、側枝2節摘心栽培では60cm、側枝伸長栽培では、80cm程度とし、2条千鳥に定植する。
B 定植
定植は播種後40日、本葉3〜3.5枚の苗を用いる。鉢土を崩さないように、2条千鳥に定植し、交互誘引する。
定植後は活着を促すため手灌水を行い、培地間の空隙をなくす。灌水チューブを利用した灌水は、定植直後で はむらが生じるため避ける。2作目以降は前作の株と株の間に定植する。苗の大きさ分だけポーラスカップなどで穴をあけ、定植する(図1)。
(3) 培養液
@ 培養液の種類
山崎処方キュウリ用1単位(原水が水道水の場合、EC値 2.2〜2.3 mS/cm)を標準とする。
山崎処方は大塚ハウス2号をA液、大塚ハウス3、5、6、7号をB液とする。高い濃度でA、B原液を混ぜると沈殿するので注意し、原液は 100倍より薄い濃度とする。
その他、大塚A処方(大塚ハウス1号、2号)の利用 が考えられるが、窒素濃度が高いことやpHの低いこと、カリウムの欠乏症状が見られることがある(次表参照)。
A 培養液の給液
定植直後から2週間程度は、1日1〜2回程度与え、株当たり 0.5リットル程度与える。生育に応じて給液回数を 増やし、定植後1カ月には約 1.5リットル、最盛期で1日6回に分けて2〜2.5リットル程度与える。
給液は、低温期には日中重視、高温期には午前中を重視するため、定植後は10、13時の2回から、生育最盛期は 7、9、11、13、15、17時とする。培地内を安定化させる ため、排液が3割程度あるように給液量を設定する。
キュウリ用100倍原液のつくり方
処方 肥 料 の 種 類 原液1リットル 当たり
山崎処方 A液 大塚2号 83g
キュウリ1単位 B液 大塚3号 61g
5号 5g
6号 50g
7号 12g
大塚A処方 A液 大塚1号 150g
1単位(参考) B液 大塚2号 100g
B 培養液管理
定植1週間までは水のみを給液し、その後は山崎処方1単位(EC値2.2〜2.3mS/cm)を給液する。
収穫中後期は培地内に十分肥料が蓄積していると考えられ、施用濃度を0.8単位程度(EC値 2.0mS/cm)に下げても問題がない。
C 培養液循環施用
給液タンクの容量が大きいと、タンク内の培養液の成分バランスの乱れが大きくなるため、1日にタンク内の培養液がなくなる容量のタンクにする。
1作終了時には必ず養液を全量交換する。循環当初はタンク内に土壌が戻ってくるため布きれなどで防ぐ。灌水チューブの末端に土壌が詰まることがあるので、詰まった場合は灌水チューブを洗浄する。培養液の給液量が少なかったりすると培地内の土壌のEC値が極度にあがる場合があるので、この場合、水で培地を洗い流す。
養液コントローラで養液濃度を管理する場合、原液タンクからの給液するチューブが藻の発生などで詰まることがあるので、原液タンクの濃度を10倍程度にして、養液コントローラーが頻繁に動くようにする。
D 除塩対策
栽培終了2週間前から、水のみを給液して栽培を続けることで、培地内の余剰肥料成分を無駄なく利用でき、培地内の除塩ができる。排液EC値が原水とほぼ同じになると除塩完了である。除塩が行われない状態で、次作を栽培すると生育障害が起こるので注意する。
(4) 本ぽ管理
@ 光環境
生育初期は、低温で日照時間が短いため、光合成の促進を図る。光合成は、大半が午前中に行われるため、2層カーテンは早朝に開放し、夕方は気温確保のため早め に行う。
A 温度管理
室温は25〜28℃を、夜温は14℃を目標に管理する。
B 誘引、整枝
主枝の下位5節までの側枝と雌花は除去する。側枝は原則として2節で混み合わないように摘心する。主枝は 18〜20節で摘心する。整枝作業は早めに分割して行う。 一度に強い整枝を行うと、側枝の発生が劣ることがあるため、勢いのある側枝を2〜3本程度残しながら整枝を行う。
C 摘葉
採光と風通しを図るため、老化した葉や、側枝葉の受 光を妨げている葉は早めに除去する。摘葉は1回に3枚ま でとする。
(5) 病害虫防除
@ ベト病
20〜24℃で、多湿条件下で発生しやすい。肥料不足などで、草勢が衰えると蔓延する。薬剤の防除は予防または発生初期に行うようにし、雨などの発生しやすい条件では早期に防除する。病原菌は葉裏から進入するため、むらのないように散布する。同一系殺菌剤の連用は耐性菌の発生を促すため、ローテーション散布を行う。
A 灰色カビ病
20℃前後の比較的低温時に発生することが多い、過湿条件下で発生することが多いため、換気を励行し、湿度を低く管理する。
B うどんこ病
気温が28℃前後で、湿度が比較的低い50〜80%の時に発生しやすい。年間通じて被害が認められるが、5〜6月頃に多発する。光線量が不足すると発生が助長される。
発病初期では防除が容易であるが、蔓延すると防除しにくい。特に少量土壌培地耕では、湿度が低くなりやすいので発生に注意する。
C アブラムシ
アブラムシはモザイク病などのウイルス病を媒介するため、対策は重要である。ハウス内は増殖に適しているので、発生が確認されたらすぐに防除を行う。
薬剤抵抗性の回避のため、必ず系列の異なる薬剤のローテーション散布を行う。
(6) 主な生理障害
@ 曲がり果
物理的な要因が多いが、生理的な場合もある。日射量、温度、水分、肥料などの要因により起こり、要因が複合することでさらにひどくなる。
A 先細り果
受精障害が主な要因である。日射、肥料、土壌水分などにより障害が助長される。過繁茂の場合にも発生する。
(猪田 有美)